top of page
BLOG: Blog2

スノーボードと経営に共通する「転び方」の哲学――失敗をどう次に活かすか

  • 執筆者の写真: 智史 長谷川
    智史 長谷川
  • 4月23日
  • 読了時間: 9分

「また転んだ」――スノーボードを始めたばかりのころ、斜面に何度も叩きつけられながら、私はあることに気づきました。上手い人ほど、転び方が美しいのです。

転ぶことを恐れて腰が引けた状態では、かえって大きく転倒します。逆に、「転んでもいい」という覚悟で前傾になった姿勢の人は、転んだあとの受け身も自然で、立ち上がりも早い。

これは、経営と驚くほど似ています。

中小企業の経営では、失敗は避けられません。新規事業が思うように伸びない、採用した人材が定着しない、資金繰りが一時的に苦しくなる――そういった「転倒」は、どんな経営者にも起こりえます。問題は「転ぶかどうか」ではなく、「どう転ぶか」「転んだあとにどう立ち上がるか」です。

この記事では、スノーボードの転び方哲学を軸に、経営における失敗の活かし方を具体的にお伝えします。


【この記事の要約】


  • 転び方には「技術」がある――スノーボードと同様、経営の失敗にも「ダメージを最小化する技術」が存在する

  • 失敗を「コスト」ではなく「投資」と捉える――正しく記録・分析された失敗は、次の意思決定の精度を高める

  • 「早く・小さく・記録する」が失敗活用の黄金則――致命的な転倒を避けるためのリスク管理と振り返りの仕組みづくりが重要


【転び方にも「哲学」がある――スノーボードから学ぶこと】


― なぜ「転び方」に注目するのか ―


スノーボードのインストラクターがよく言う言葉があります。

「転び方を覚えれば、上達が早くなる」

初心者のうちは、転倒そのものを恐れます。しかしその恐怖心が、かえってぎこちない動きを生み、より大きな転倒を招きます。

一方、転び方――つまり受け身の取り方や体の使い方――を習得すると、転倒してもすぐ立ち上がれるようになります。転倒がただの「失敗」ではなく「学びのプロセス」になるのです。

経営も同じです。「失敗しないこと」を最優先にすると、経営者は保守的になりすぎ、成長の機会を逃します。大切なのは「失敗しない経営」ではなく、「失敗から立ち上がれる経営」です。


― 転倒の「3パターン」と経営の失敗類型 ―


スノーボードの転倒には、大きく3つのパターンがあります。それぞれを経営の文脈に置き換えてみましょう。


◆ パターン①:ヒールエッジ転倒(後ろ向きに倒れる)

スノーボードでは、かかと側のエッジが甘くなって後方に倒れる転倒。初心者に多い。

経営で言えば:守りすぎた結果の失敗。変化への対応が遅れたり、判断を先送りにしたりした結果、競合に市場シェアを奪われるケース。


◆ パターン②:トゥエッジ転倒(前のめりに倒れる)

攻め過ぎてつま先側のエッジが過剰に食い込み、前方に転倒する。スピードを出す中上級者にも多い。

経営で言えば:攻めすぎた結果の失敗。新規事業や設備投資に過剰なリソースを投じ、キャッシュが底をつくケース。


◆ パターン③:コースアウト転倒(コースを外れてしまう)

視野が狭くなりコース全体を把握できず、想定外の地形に入ってしまう転倒。

経営で言えば:情報不足による失敗。市場調査・デューデリジェンス(企業の財務・法務などを事前調査すること)が甘く、M&Aや新市場参入に失敗するケース。


【「転ばない経営」の幻想――リスクゼロは成長ゼロ】


― 失敗を恐れると何が起きるか ―


「失敗したくない」という気持ちは当然です。しかし、失敗を過度に恐れた経営者が陥りやすい罠があります。

  • 意思決定が遅くなる:「もう少し情報を集めてから」と先送りし続けた結果、タイムリーなチャンスを逃す

  • 挑戦をやめる:新事業・新規採用・設備投資を抑え、現状維持に終始する

  • 失敗を隠す:社内で失敗を認めにくい文化になり、問題が雪だるま式に大きくなる


スノーボードでも同様です。転倒を恐れてスピードを全く出さない人は、上達しません。一定のリスクを取ることが、成長に必要なのです。


― 「リスクを取る」ことと「無謀」の違い ―


ここで重要なのが、「リスクを取ること」と「無謀であること」は違うという点です。

項目

リスクを取る経営

無謀な経営

事前準備

情報収集・シミュレーションを行う

ほぼ行わない

損失の上限

あらかじめ設定している

設定していない

失敗時の対応

早期に損切り・ピボットできる

ずるずると継続する

学習

失敗を記録・振り返る

同じ失敗を繰り返す

スノーボードで言えば、「ヘルメットをかぶってプロテクターをつけた上でスピードに挑戦する」のがリスクを取る姿勢であり、「装備なしで急斜面に突入する」のが無謀です。


【失敗を「資産」に変える――転倒から学ぶ技術】


― 転倒の「振り返り3ステップ」 ―


スノーボードの上達者は、転んだあとに必ずやることがあります。

  1. なぜ転んだか、その場で振り返る(エッジの角度?スピード?視線?)

  2. 次の滑走で意識的に修正を試みる

  3. 上手くいったかどうかを確認し、また修正する


経営における失敗の振り返りも、同じ構造で考えることができます。


◆ ステップ1:失敗を記録する

まず、何が起きたかを客観的に記録します。「新商品が売れなかった」で終わらせず、「ターゲット顧客が違ったのか」「価格設定の問題か」「認知度が足りなかったのか」と要因を細分化します。


◆ ステップ2:根本原因を特定する

いわゆる「なぜなぜ分析」(問題の原因を「なぜ?」と繰り返すことで根本原因を探る手法)を活用します。表面的な原因を取り除いても、根本原因が残っていれば、形を変えて同じ失敗が繰り返されます。


◆ ステップ3:仕組みで再発を防ぐ

個人の注意に頼るのではなく、プロセスやチェックリストを整備することで、同じ失敗が起きにくい環境をつくります。


― 財務から見る「転倒ダメージの最小化」 ―


スノーボードでプロテクターが体を守るように、経営では財務の健全性が「転倒ダメージ」を最小化します。


◆ キャッシュフローのバッファ(余裕資金)を持つ

売上が一時的に落ち込んでも事業を継続できるよう、3〜6ヶ月分の固定費に相当する現金を保持することが理想です。これが、転んでもすぐ立ち上がれる体力になります。


◆ 月次の数字を把握する

freee(クラウド会計ソフト)などを活用して、月次の損益・キャッシュフローをリアルタイムで把握しておくことで、「転び始めたサイン」を早期に察知できます。問題は小さいうちに発見するほど、対処が容易です。


◆ 損切りのラインを事前に決める

新規事業への投資・採用・マーケティングなど、あらかじめ「ここまで効果が出なければ撤退する」という基準を設定しておくことが重要です。感情的に判断すると、損切りが遅れて傷が深くなります。


【挑戦を支える失敗文化の作り方】


― 社内で「失敗を語れる」文化をつくる ―


経営者自身が「自分の失敗」を社内で語れるかどうかは、組織文化に大きく影響します。

代表が失敗を隠すと、社員も失敗を報告しなくなります。

逆に、失敗を「学びの機会」として共有する文化があれば、問題は早期に発見され、チーム全体の成長につながります。

スノーボードのスクールでは、インストラクターが「こんな転び方をしたことがある」と自分の体験を話すことで、生徒の緊張がほぐれます。

同様に、経営者が自らの失敗談を語ることで、社員は「失敗=終わりではない」と安心感を持てます。


◆ 振り返りの場を定期的に設ける

月次・四半期ごとに「うまくいかなかったこと」を話し合う場をつくります。責任追及の場ではなく、改善策を考える場として設計することが重要です。


― 経営計画は「転倒シミュレーション」でもある ―


精度の高い経営計画とは、「うまくいった場合の計画」だけでなく、「うまくいかなかった場合のシナリオ」も含んでいます。

  • ベースシナリオ:想定どおりに進んだ場合

  • 悲観シナリオ:売上が20〜30%下振れした場合

  • 楽観シナリオ:売上が想定を上回った場合


3つのシナリオを描いておくことで、転倒(悲観シナリオ)が発生しても「想定内」として冷静に対処できます。スノーボーダーが「ここは転倒リスクが高い」とあらかじめ認識して滑るのと同じです。


【よくある質問】


◆ Q1:失敗したことを経営計画に記録すると、金融機関などに悪印象を与えませんか?

A:過去の失敗そのものより、「その失敗から何を学び、どう改善したか」を明示することが重要です。問題を認識・分析・改善できる経営者は、むしろ信頼されます。失敗を隠した虚偽の計画より、誠実な振り返りのある計画のほうが評価は高くなります。


◆ Q2:小さな個人事業主でも、振り返りの仕組みは必要ですか?

A:規模に関わらず有効です。freeeなどのクラウド会計を使えば、月次の損益や入出金をほぼ自動で把握できます。まずは月に一度、「何がうまくいき、何がうまくいかなかったか」を5分でもいいので振り返る習慣をつけることをお勧めします。


◆ Q3:失敗しても立ち上がれる「資金的な備え」はどのくらい必要ですか?

A:一般的には固定費(家賃・人件費など毎月必ず発生するコスト)の3〜6ヶ月分が目安です。ただし、業種・季節変動・成長ステージによって異なるため、個別の状況を踏まえた判断が必要です。資金繰りの不安がある場合は、早めにご相談ください。


◆ Q4:M&AやIPO準備のような大きな挑戦で失敗した場合はどうすればよいですか?

A:大きな挑戦ほど、失敗時の影響も大きくなります。だからこそ、事前のデューデリジェンス(財務・法務・事業の事前調査)と撤退基準の設定が重要です。失敗が確定した場合も、専門家(公認会計士・弁護士など)と早期に連携して、損失を最小化する対応策を講じることが先決です。


【まとめ】


スノーボードで転ばずに上達することはできません。同様に、経営で失敗ゼロの成長も、ほぼありえません。

大切なのは、以下の3つです。

  1. 転ぶ前に備える――財務のバッファ、損切り基準、経営計画のシナリオ設定

  2. 上手く転ぶ――失敗を記録・分析し、根本原因を特定する

  3. 早く立ち上がる――仕組みで再発を防ぎ、社内で失敗を語れる文化をつくる


失敗を恐れて立ち止まるより、上手に転んで素早く立ち上がれる経営者のほうが、長期的には必ず強くなります。


【試してみよう】


  1. 今月の「失敗リスト」を作ってみる:うまくいかなかったこと、想定と違ったことを3つ書き出し、それぞれの原因を一言で記録してみましょう

  2. 損切り基準を1つ設定する:現在進行中のプロジェクトや取り組みに対して、「この条件になったら撤退・変更する」という基準を明文化してみましょう

  3. 月次数値を確認する習慣をつける:freeeなどのクラウド会計を使っている方は、月末に損益とキャッシュフローを5分確認するだけで、経営の「転倒予兆」をつかめるようになります

関連記事

すべて表示
飛び級・中卒が当たり前の国も? AI時代に変わる世界の教育モデル

【記事の要約】 ・アメリカでは飛び級や大学授業の先取りが進み、11歳で大学に進学するケースもある ・スイスでは中学卒業後に企業で働きながら学ぶ「見習い制度」が一般的 ・世界では 「一律教育」から「才能や適性に応じた教育」へとシフト が進んでいる 【ニュース概要】 (出典:日本経済新聞 2026年3月5日「飛び級・中卒は当たり前、『さらば一律』教育 アメリカは11歳から大学入学も 出る杭伸ばす才能の

 
 
新・空き家問題を読み解く:2030年、日本の住宅市場に何が起きるのか

総務省による住宅・土地統計調査では、全国の空き家数が 900万戸超 に達したことが明らかになりました。空き家率は13.8%、つまり日本の家の 7軒に1軒が空き家 という状況です。 今回読んだ『新・空き家問題』(牧野知弘 著)では、空き家増加の真因と、これから住宅市場に訪れる「2030年の大変化」が具体的に描かれています。 本記事では、本書で特に印象に残ったポイントを、私自身の視点や考察を交えて整理

 
 
成長率・金利論争とは何か? ― 中小企業経営にどんな影響があるのか徹底整理

日本経済新聞(2025/12/2 朝刊) にて、政府の財政運営を巡る「成長率・金利論争」が再び注目されています。 一見すると“国の財政の話”に聞こえますが、実際には 中小企業の資金繰り・借入金利・設備投資・補助金政策・税負担 など、経営に直結するテーマです。 2025年以降、日本は 「金利のある世界」 に戻りつつあります。 金利が上がる時代に、国の財政方針がどう変わるのかは、企業の戦略に無視できな

 
 

​​

Hasegawa CPA Office

​東北/仙台市

Copyright ©  Hasegawa CPA Office All Rights Reserved.

bottom of page