高齢者の金融所得が医療保険料に反映へ 配当・利子のみ対象
- 智史 長谷川
- 11月27日
- 読了時間: 4分
【ニュース概要】
(出典:日本経済新聞 朝刊 2025/11/19)
政府は、高齢者の金融所得(株式配当・利子など)を医療保険料の算定に反映する制度を導入する方針を固めた。これまで確定申告をしなければ金融所得が保険料計算に入らず、保険料や窓口負担が軽くなる“未申告優遇”が問題となっていた。
制度は 2020年代後半に開始予定で、まずは75歳以上の後期高齢者医療制度に適用される見込み。
【このニュースが何を意味するのか】
今回の制度改正は、簡単に言うと、
「金融資産を多く持っている高齢者に、相応の医療保険料を負担してもらう」
という方向への大きな見直しです。
背景には以下の事情があると考えられます。
─ポイント① 不公平是正
現在の制度では、株式配当や利子が多くても確定申告をしなければ保険料に反映されないため、
・金融資産が多い高齢者ほど保険料が安い
・損益通算などで申告している人は保険料が高くなる
という現象が起きていました。
厚労省によると、金融所得の約9割が保険料算定に反映されていないとされています。
─ポイント② 現役世代の負担が限界
医療費の増加に伴い、国保・後期高齢者医療ともに「現役世代の保険料負担」が重くなっています。
高齢者側で負担調整を行うことで、現役世代の負担を軽減する目的があります。
【制度改正の具体的な中身】
【1】対象はまず「75歳以上」
後期高齢者医療制度は、給与や働き方による差がないため最初の対象に選ばれています。
【2】反映するのは「株式配当」「利子」など金融所得
従来:確定申告した場合のみ反映
今後:申告しなくても、データベースを使って反映
税務署が保管している法定調書(証券会社の取引報告)を市町村側でも確認できるよう、専用のデータベースを創設します。
【3】NISA口座は対象外
非課税運用を促すため、NISAの金融所得は保険料の算定対象外です。
【4】国保・介護保険にも広がる可能性
自営業者が加入する国民健康保険、介護保険も今後の拡大対象に含まれています。
【現役世代への影響と、将来の負担構造の変化】
今回の制度改正は「高齢者の金融所得を医療保険料に反映する」仕組みであるため、現役世代には直接の影響はありません。
健康保険(会社員は協会けんぽ・健保組合、自営業者は国保)は給与や事業所得で保険料が決まるため、金融所得が保険料に影響することは現状ありません。
しかし、親世代で金融所得の多い方にとっては影響が大きい制度です。
株式配当や利子収入が多い高齢者は、これまで未申告であれば保険料負担が軽く済んでいましたが、今後はそれが難しくなり、負担が増える方向に進むと見られます。
この背景には、医療費増大のなかで 現役世代の保険料負担を増やさずに済ませる という政策意図があります。
つまり、今回の制度によって高齢者側に追加負担が生じたことで、
現役世代は“現状は”増税やさらなる保険料アップを免れているとも言えます。
ただし注意が必要なのは、“自分たちが高齢者になったときは構造が逆転する”という点です。
将来は、
・資産運用をしているか
・金融所得がどれくらいあるか
によって、負担する医療保険料が大きく変わる仕組みが定着する可能性が高いといえます。
これは、金融投資が広がる時代において、
「投資をすると将来の医療保険料が上がるかもしれない」
という新しい足かせになり得ます。
現役世代の金融リテラシー向上や資産形成が国として求められる一方で、
“高齢期の金融所得が重い負担につながる”可能性が生じる点は、長期的な資産戦略上の重要テーマとなります。
【Q&A】
Q1:資産があまりない高齢者も対象?
A:対象は「金融所得がある人」。原則、資産が少ない人へ大きな影響はありません。
Q2:確定申告をしなくても勝手に反映される?
A:はい。法定調書データベースによる照合が計画されています。
Q3:いつから始まる?
A:2020年代後半に開始予定。25年度に法改正、26年通常国会で議論されます。
Q4:NISAは本当に完全除外?
A:現時点の報道では除外方針。ただし制度設計で変更の可能性もあるため、最新情報の確認が必要です。
【まとめ】
今回の制度は、
「金融資産の多い高齢者に適正負担を求める方向へシフトする」
という非常に大きな改革です。
現役世代は現状の改正案では影響はありませんが、金融所得が多い親世代は影響が大です。今後の税制改正で現役世代にも対象が広がってくる可能性があるので、最新情報の確認が必要です。
