東京高裁が判断「保険外交員にも個人事業税」
- 智史 長谷川
- 11月6日
- 読了時間: 4分
ニュース概要
(出典:東京高等裁判所 2025年10月02日(令和7年(行コ)第105号))
2025年10月2日、東京高等裁判所は、保険外交員が受け取る報酬に対して個人事業税を課すことができると判断しました。
原告となった保険外交員19名が東京都の課税処分の取消しを求めていましたが、東京地裁に続いて高裁でも敗訴。
つまり、「外交員の仕事は地方税法上の“代理業”にあたるため、個人事業税の対象になる」という結論です。
判決は今後、フリーランスや業務委託契約で働く人たちにも影響する可能性があります。
1. そもそも「個人事業税」とは?
個人事業税は、事業を行っている個人に課される地方税です。
たとえば、美容院、飲食店、運送業、設計事務所など、「事業を営んでいる」と認められる場合に課税されます。
税率は事業の種類によって異なり、多くの場合、利益の5%程度が目安です。
一方で、「給与所得者(会社員など)」は個人事業税の対象外です。つまり、働き方が“事業主なのか・従業員なのか”で税金の扱いが変わるわけです。
2. 今回の争点:「代理業」にあたるかどうか
保険外交員の仕事は、生命保険会社の商品を顧客に勧め、契約につなげる業務です。
外交員は会社から歩合制の報酬を受け取りますが、その契約は雇用契約ではなく「業務委託契約」になっていることが多く、個人事業主に近い働き方をしています。
この点について、東京都は「外交員の仕事は“代理業”にあたり、個人事業税の課税対象だ」と判断。
外交員側は「私たちは会社の指示で動く“使用人”であり、事業主ではない」と主張しました。
3. 東京高裁の判断:「独立して事業をしている」
裁判所は次のように整理しました。
外交員は歩合制の報酬を得ており、確定申告で「事業所得」として経費(接待費・車両費など)を計上している
これは「自己の計算と責任で独立して事業を行っている」ことを意味する
したがって、その仕事は地方税法上の「代理業」に該当する
つまり、「報酬のもらい方」や「経費の扱い」が“事業主的”であれば、実質的には事業として見なすべきという考え方です。
4. 判決が意味すること
この判決は、保険業界に限らず、営業委託・代理販売・紹介業などのフリーランス契約全般に影響を与える可能性があります。
特に以下のようなケースは要注意です:
「成果報酬型」「歩合制」で働いている
会社から経費が支給されず、自分で支出・管理している
自分の判断で顧客を開拓している
こうした場合、「給与所得者」ではなく「個人事業主」として扱われる可能性が高くなり、個人事業税が課税されることになります。
5. 中小企業・個人事業主が気をつけるポイント
(1)契約形態を確認する
雇用契約なのか、業務委託契約なのか。契約書の文言だけでなく、実態がどうかが判断基準になります。
(2)報酬の申告区分を整理する
確定申告で「事業所得」として申告している場合は、個人事業税が課税される可能性が高まります。給与所得と誤認されないよう注意が必要です。
(3)税務リスクを把握する
会社側も、委託契約者が多数いる場合は、個人事業税や源泉徴収の取り扱いなどを再点検することが求められます。
6. 今後の見通し
今回の控訴審では東京都が勝訴しましたが、原告側は最高裁に上告しています。
最終判断が確定すれば、全国の地方税務実務に影響を及ぼす可能性があります。
働き方が多様化する中で、税務上の「独立」と「雇用」の境界が、より明確に問われる時代になっています。
まとめ
保険外交員の仕事は「代理業」にあたり、個人事業税の対象になると東京高裁が判断。
フリーランス営業や業務委託者にも同様の考え方が広がる可能性あり。
「事業主か従業員か」は契約書よりも実態(報酬・経費・独立性)で判断される。
今後、同様の契約形態で働く人や、フリーランスを活用する企業は、税務リスクを見直しておくことが大切です。
