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起業家の脳を突き動かす「ドーパミン」とメンタルヘルスの真実

  • 執筆者の写真: 智史 長谷川
    智史 長谷川
  • 10月4日
  • 読了時間: 5分

なぜ多くの起業家は燃えるような情熱を持ちながらも、メンタルヘルスの問題に直面するのでしょうか。


近年の研究では、その背景に「ドーパミン」という脳内物質が深く関わっていることが明らかになっています。


本記事では、ニール・シーマン著『Accelerated Minds(邦題:起業中毒)』をもとに、起業家の脳の特性、快楽と苦悩のメカニズム、歴史的な事例、そして持続可能な起業活動のためのヒントを紹介します。海外事例ですが、日本でも参考にできる点が多くあります。



記事の要約


  1. 起業家は一般の人に比べてメンタルヘルスの問題を抱えやすく、その背景には「ドーパミン」の働きがある。

  2. 起業家には「快楽主義型」と「価値志向型」という2つのタイプがあり、それぞれにリスクと特徴がある。

  3. 実際に世界ではアーロン・スワーツをはじめ、多くの起業家がドーパミンとプレッシャーに翻弄され、悲劇を迎えている。



起業家とドーパミンの関係


ドーパミンとは何か

ドーパミンは、私たちの脳内で「快楽」や「報酬」に関わる神経伝達物質です。

・おいしい食事を楽しんだとき

・目標を達成したとき

・競争に勝ったとき


これらの瞬間に放出されることで「もっとやりたい」「もう一度味わいたい」という衝動を生み出します。

起業家にとって、このドーパミンは新しいアイデアを追求する原動力にもなりますが、同時に強烈なリスク要因ともなり得ます。


ドーパミンが起業家を突き動かす

研究によれば、起業家の7割以上が何らかのメンタルヘルスの懸念を抱えているといわれています。特にドーパミンの過剰な分泌は以下のような傾向を生み出します。

  • 「自分なら事業を救える」という妄想的な自信

  • 常に新しい刺激を求める衝動

  • 成功や失敗に対する強烈な感情の揺れ


このため、成功してもプレッシャーに押しつぶされ、失敗しても立ち直れず、精神的に追い込まれる起業家が少なくありません。



歴史的事例紹介:情熱と苦悩のはざまで


アーロン・スワーツ ― 26歳で命を絶った天才プログラマー


アーロン・スワーツは、RSSの共同開発者であり、ソーシャルニュースサイト「Reddit」の共同創業者でもあります。

若干10代の頃からインターネットの可能性を切り開き、自由でオープンな知識共有の文化を推進しました。

しかし彼は、情報の自由化をめぐる活動や司法との衝突、社会的プレッシャーに押し潰され、2013年、わずか26歳で自ら命を絶ちました。

彼の死は「天才的な起業家であっても、過度なプレッシャーと精神的負担に耐えられない」という現実を世界に突きつけました。


ペーテル・クレサン(ハンガリー)とジェイク・ミラー(ニュージーランド)


  • ペーテル・クレサン:農業関連のビジネスで成功を収めたものの、2022年に47歳で自殺。

  • ジェイク・ミラー:わずか26歳で起業し注目を浴びましたが、2021年に自宅で自殺。


こうした事例は決して特殊なものではなく、世界各地で繰り返されています。


インドにおける深刻な状況


インドでは、起業家の自殺率が非常に高いことが報告されています。

統計によれば、1時間に1人の起業家が命を絶つとされ、その背景には経済的なリスクや社会的な圧力、ドーパミンによる衝動性が関与していると考えられます。



快楽主義型と価値志向型の起業家


快楽主義型起業家

  • 報酬や権力、競争に勝つことがドーパミンと結びつく

  • 失敗しても外部要因のせいにし、比較的早く立ち直れる

  • 「シリアルアントレプレナー」として次々と事業を展開しやすい


価値志向型起業家

  • 社会的意義や解決策の発見に喜びを感じる

  • 責任感が強く、失敗を「自分のせい」と抱え込みやすい

  • 不安や自己批判に陥りやすく、うつ病のリスクも高い


このように、同じ「起業家」であってもタイプによって強みと弱みが大きく異なります。



起業家を取り巻く社会的環境


VC文化とプレッシャー

2008年の金融危機以降、起業家の世界は大きく変化しました。ベンチャーキャピタルが早期から巨額の資金を投じるようになり、若い起業家が短期間で巨額の評価額を得ることも珍しくありません。しかしその裏では、リスクが起業家本人に集中し、プレッシャーに耐えきれず精神的に崩れるケースも増えています。


SNS時代の影響

SNSの普及によって「成功の演出」が当たり前となり、常に成果をアピールし続けなければならない空気が起業家を追い詰めます。



起業家が心を守るためのヒント


1. メンタルヘルスを「資本」と捉える

起業資金や人材と同じように、メンタルも経営資源のひとつ。専門家のサポートを受けたり、セルフケアの習慣を持つことが欠かせません。


2. 快楽主義と価値志向のバランスを取る

短期的な報酬を追い求めるだけではなく、長期的な価値を見据えることで、精神的な持続可能性が高まります。


3. 「立ち止まる勇気」を持つ

ドーパミンの衝動に駆られて突き進むのではなく、時に立ち止まり、冷静に事業を見直すことが必要です。



よくある質問(Q&A)


Q1. 起業家はなぜうつ病になりやすいのですか?

A1. ドーパミンの急激な変動が感情の不安定さを生み、責任感やプレッシャーが加わることでうつ病のリスクが高まります。


Q2. 快楽主義型と価値志向型、どちらが成功しやすいですか?

A2. 短期的には快楽主義型が立ち直りやすい一方、価値志向型は長期的に社会に影響を与える可能性が高いとされます。


Q3. 起業家でなくても「ドーパミン中毒」になることはありますか?

A3. はい。SNS依存やギャンブル、過度の仕事など、誰でもドーパミンの過剰分泌に影響を受ける可能性があります。



まとめ


アーロン・スワーツの悲劇や世界各国での起業家の自殺事例は、ドーパミンに突き動かされる「加速する脳」が、時に人を破滅へと導くことを示しています。

起業家は社会を変える力を持つ一方で、その情熱が心を蝕むリスクをはらんでいます。

重要なのは「メンタルヘルスを守ることは弱さではなく、成功への前提条件である」という視点です。

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