非公開化が加速する日本企業──TOB価格への不満噴出と一般株主が直面する課題
- 智史 長谷川

- 11月28日
- 読了時間: 4分
【記事の要約】
日本企業の非公開化が増える中、TOB価格が「安すぎる」として一般株主の不満が高まっている。
豊田自動織機の事例では、提示されたTOB価格が市場価格を下回り、ガバナンスや少数株主保護への懸念が浮上。
少数株主保護の仕組みが米国より弱い日本では、一般株主が「安い手切れ金」で追い出されるリスクが残り、投資マインド低下も懸念される。
【ニュース概要】
(出典:日本経済新聞 電子版 2025/11/28)
日本企業の非公開化(MBO・TOB)が増える中、提示されるTOB価格が市場価格より低い、あるいはプレミアムが十分でないとして一般株主から不満が噴出している。
特に豊田自動織機の非公開化をめぐっては、TOB価格が発表当日の終値より大幅に低く、アクティビスト投資家や機関投資家が「評価が不当に低い」と反発。少数株主保護の観点から議論が高まっている。
【非公開化が加速──背景にある市場環境】
近年、日本企業ではMBO(経営陣による買収)やグループ内再編による非公開化が増加している。背景には、
・上場維持コストの増加
・事業再編ニーズ
・株式市場の短期志向との距離感
などがある。
実際、28日の東京市場ではマンダム株が上昇した。TOB価格が低すぎるとアクティビストが批判し、引き上げられたことが市場の反応を呼んだ。
【問題の本質:TOB価格の「妥当性」をめぐる対立】
今回大きく話題になったのが 豊田自動織機の非公開化。
トヨタ不動産が提示したTOB価格
→ 1万6300円(事前株価比+23%)
しかし、
・発表時点の株価は1万8400円
・市場終値より大幅に安い
という理由から、運用会社・アクティビストが強く反発した。
実際に株価は市場でTOB価格を上回る水準まで上昇し、「本来の企業価値はもっと高い」という投資家の評価を示している。
また、アクティビストのエリオットも「事業価値が過小評価されている」と批判している。
【プレミアムが低い?──日本と米国の比較】
日本のTOBプレミアム平均(24年までの3年平均):39%
米国の平均:66%
今回提示された23%というプレミアムは、
・日本平均より低い
・米国基準とはさらに差が大きい
という点が問題視されている。
投資家にとっては、
「本来もっと高く評価されていたはずなのに、安く買い叩かれてしまう」
という不信につながっている。
【少数株主の“声”が十分に反映されない構造】
今回のケースでは、MOM(マジョリティー・オブ・マイノリティー:少数株主の過半数の同意を得る手続き)に、トヨタグループ会社の株主が含まれている点も批判の対象になっている。
「本当に独立した少数株主の意思が反映されているのか?」
という疑問が出ている。
【株主が取りうる手段は?──法律の壁】
株主が不満を持った場合、
・裁判で「公正な価格での買い取り」を求める
ことは可能。
しかし学識者の見解では、
・特別委員会を設置している点
・一定のプロセスは踏んでいる点
から、裁判所が「不公正」と判断するかは不透明とされる。
米国では、
・株主が集団訴訟を起こせる
・大きな賠償リスクが経営陣にプレッシャー
となり、少数株主の交渉力は強い。
一方、日本は
「負けても申立人に差額を払うだけ」
で済み、抑止力が弱いことが問題視されている。
【非公開化の質が問われる時代へ】
日本の非公開化は増加している。
しかし、今回のように
・「安く買われてしまう」
・「一般株主の声が届かない」
事例が広がると、日本株への投資マインドが落ちる懸念がある。
記事では、東大の後藤教授が
「株価が上がっている以上、TOB価格の再交渉を行うべき」
と指摘している。
これは、少数株主保護を強める必要性を象徴するコメントだ。
【中小企業・オーナー企業にとっての意味】
読者である中小企業経営者にとっても、今回のニュースは他人事ではない。
● M&Aの価格決定は「手続きの透明性」が重要
● 利害を持つ株主・役員だけで判断するとトラブルのもと
● 買収される側としても、少数株主に配慮した設計が求められる
非公開化の波は大企業だけでなく、未上場企業の親会社・子会社再編にも波及する可能性が高い。
【まとめ】
日本企業の非公開化は加速しており、その中でTOB価格をめぐる不満や少数株主保護の課題が浮き彫りになっている。
もし「安い手切れ金」で一般株主が扱われるケースが続けば、日本株市場全体への不信や投資縮小を招きかねない。
事業再編やM&Aが増える今だからこそ、
・手続きの透明性
・少数株主への丁寧な説明
・価格決定プロセスの公正性
が企業には強く求められている。
