離婚と税金|財産分与・マイホーム・譲渡所得をめぐる“知らないと損する”ポイントを整理
- 智史 長谷川

- 11月27日
- 読了時間: 4分
離婚は法律・手続きだけでなく「税金」も大きく影響します。
特に自宅(持ち家)を財産分与する場合、名義変更だけで「譲渡所得」が生じ、予想外の税負担が発生するケースがあります 。
本記事では、日経電子版(2025年11月23日)「離婚と税 財産分与、自宅の値上がりで思わぬ課税も」の内容をもとに、離婚と税金の実務ポイントを体系的にまとめます。
中小企業経営者・個人事業主・資産形成中の方にとっても重要な論点が多いため、判断の参考にご活用ください。
(参考)
【本文】
【1】離婚時の財産分与に贈与税はかかる?
離婚に伴う財産分与は、原則として「贈与税の対象外」です。
これは、夫婦の協力によって形成された財産を清算する性質のためです 。
ただし注意点があります。
──ポイント
・分与割合の目安は「1/2ずつ」
・ただし寄与度など事情を考慮
・“多すぎる分与”は贈与税課税の対象となる可能性あり
つまり「事実上の贈与」と判断されるほどの過大な財産分与は危険です。
【2】最も注意が必要なのは「自宅」の財産分与
離婚で揉めやすいのが“マイホームの取り扱い”。
結婚後に購入した自宅は、名義が単独であっても共有であっても
「財産分与の対象」です 。
特に問題になるのは次のケースです。
【ケース】
●名義のない側がそのまま住み続けるため、名義変更をする
→このとき、名義変更だけで「譲渡」とみなされる
【なぜ課税される?】
購入時から現在までの「値上がり分」に相当する譲渡所得が発生するからです。
・売却していなくても
・お金を受け取っていなくても
税法上は“時価相当額で譲渡した”扱いになります。
──これが“思わぬ課税”を生む最大のポイントです。
【3】名義変更による「譲渡所得」が発生する仕組み

上図では、「夫名義→妻名義」への変更で、値上がり分が譲渡所得になる構造が示されています 。
──イメージ構造
・購入価格 → 時価が上昇
・名義変更=値上がり分を相手に渡したとみなされる
・値上がり益 × 税率 = 譲渡所得税の対象
【4】マイホームの売却益には「控除」が使える
財産分与で自宅を売却する場合、次がポイント。
【3000万円の特別控除】
マイホーム売却益について
●最大3000万円の特別控除を適用可能
●財産分与を目的とした売却・名義変更でも適用できる
●離婚後は「特別の関係」がなくなるため利用可能
重要な点は、
“離婚直後の元配偶者への売却でも控除が使える”ということです。
税務上の判断は以下で決まります。
・売却時点に婚姻関係があるかどうか(偽装離婚は除外)
ただし、3000万円控除を使うと
・翌々年まで住宅ローン控除が使えない
ため、新居購入を予定している場合は注意が必要です 。
【5】2009〜10年購入物件の「特別控除」
専門家でも見落としがちな制度として、
●1000万円特別控除(2009〜10年購入物件限定)があります。
──特徴
・3000万円控除との併用不可
・ただし住宅ローン控除の併用は可能
・売却益が少ない場合は有利になるケースあり
離婚時の自宅売却では、購入年の確認が非常に重要です。
【6】住宅ローン残債の有無で選択肢が変わる
離婚時の選択肢は、住宅ローン残債の状況で変わります。
【アンダーローン(売値 > 残債)】
・売却が有力
・売却益が出れば控除を活用可能
・損失が出れば他の所得と損益通算の可能性もあり
【オーバーローン(売値 < 残債)】
・売却が難しい
・共有名義のまま残すと、売却や賃貸に相手の同意が必要になるなど不便
・勝手な名義変更は金融機関の契約違反になる可能性(最悪一括返済)
離婚後の生活設計を踏まえて慎重に判断する必要があります。
【7】「税逃れ離婚」は重加算税のリスク
故意に税負担を減らすための“偽装離婚”と認定されれば
●贈与税
●重加算税(仮装・隠蔽)
の対象となる可能性があります 。
税務調査での指摘リスクも高く、非常に危険です。
【まとめ】
離婚と税金の関係を整理すると、次のポイントに集約されます。
【1】財産分与は原則贈与税がかからないが「多すぎる分」は課税リスク
【2】自宅の名義変更は“売却扱い”となり、値上がり分に課税
【3】3000万円控除・1000万円控除の適用可否は節税効果が大きい
【4】離婚後は「特別の関係」ではなくなるため特例が使いやすい
【5】ローン残債の状況で売却戦略が変わる
【6】偽装離婚は重加算税のリスク
離婚は感情面・法務面だけでなく「税金」が密接に関わります。
新生活の資金や将来設計に直結する部分のため、専門家への相談を強くおすすめします。
