研究開発費の会計・税務の処理方法を解説
- 智史 長谷川
- 3 時間前
- 読了時間: 4分
「研究開発費」と聞くと大企業の話と思われがちですが、実は中小企業にとっても、製品・サービスの改良や新技術の試作など、身近な経費として大きな意味を持ちます。
本記事では、研究開発費の定義から、会計処理・税務処理の取扱い、freeeでの処理方法までを丁寧に解説します。
記事の要約
研究開発費は、目的や成果の性質により「費用計上」「資産計上」など処理が異なる
税務上は「資産計上」になるケースも多く注意が必要
研究開発税制が利用できる場合は、税金の控除が受けられる
研究開発費とは
研究開発費とは、新製品・新技術の開発、既存製品の改良、あるいは新しいサービス開発に伴う費用をいいます。具体例には以下が含まれます。
費用の種類 | 内容の例 |
人件費 | 研究開発に関わる従業員の給与・手当 |
原材料費 | 試作のために使用した材料費 |
外注費 | 委託開発・技術検証費用 |
設備費 | 試験研究用の機械購入費 |
消耗品費 | 研究用の器具・工具類の購入 |
会計上は「研究開発費」、税務上は「試験研究費」と呼ばれ、処理方法が異なるため注意が必要です。
(参考)「試験研究費」は税法等では以下のように定義されています。
経産省資料「研究開発税制の概要と令和5・6年度の税制改正について」より


会計処理
研究開発費は、原則として発生時に一括費用処理します(発生主義)。
「一般管理費」として処理するのが基本ですが、製造現場で行われる場合や他の原価と合算する場合は「当期製造費用」として処理することも可能です。
研究開発目的の固定資産や試作品は、会計上は原則費用処理ですが、資産性が高い場合(販売可能だったり自社利用可能なケース)は資産計上も認められる場合があります。
(参考)「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」
税務上の取り扱い
基礎研究・応用研究は「一般管理費(期間費用)」として費用処理します。
工業化研究は「製造原価」(資産計上→売上原価)となります。
※工業化研究に該当することが明らかでない場合は「一般管理費(期間費用)」
基礎研究:新しい知識や原理の発見を目的とした調査・探究
応用研究:基礎研究の成果を実用化に向けて応用する研究
工業化研究:応用研究の成果をもとに、実際に製品化・量産化するための具体的な研究・開発
試験研究用固定資産や試作品、自社利用ソフトウェアは、税務上は原則資産計上し、減価償却の対象となります。 ※販売も自社利用もできない場合は費用計上
※試験研究用固定資産は、通常の減価償却資産に比べて短い耐用年数が適用される(機械装置であれば、4年)
研究開発税制(税額控除)があり、一定要件を満たせば法人税額から控除可能です(一般試験研究費、中小企業技術基盤強化税制、特別試験研究費など)
(参考)
No.5441 研究開発税制について(概要)
No.5442 一般試験研究費の額に係る税額控除制度
会計処理と税務処理の違いまとめ
区分 | 会計 | 税務 |
基礎研究・応用研究 | 発生時に「一般管理費(期間費用)」として費用処理 | 会計と同じ |
工業化研究 | 発生時に「一般管理費(期間費用)」として費用処理 | 「製造原価」として資産計上。販売時点で売上原価に振替え、損金算入 |
研究開発用材料等 | 研究開発活動で使用した時点で費用処理 | 基礎・応用研究用は費用処理、工業化研究用は「原材料」として資産計上 |
試作品 | 発生時に研究開発費として費用処理(例外的に資産性が明確な場合のみ資産計上可) | 固定資産としての機能を有する場合や外部販売可能なものは「有形固定資産」または「棚卸資産」として資産計上 |
研究開発目的の固定資産取得 | 取得時に費用処理(例外的に資産性が明確な場合のみ資産計上可) | 「有形固定資産」として資産計上し、減価償却 |
自社利用ソフトウェア | 研究段階は費用処理、将来の収益獲得または費用削減が確実となった段階で資産計上 | 原則「無形固定資産」として資産計上 |
会計freee活用例
・応用研究として研究開発委託費用 50万円を普通預金から支払
借方:研究開発費 500,000円 貸方:普通預金 500,000円
・研究開発委託費用 50万円を前払いし、後日検収した。※期を跨ぐケースは注意
(前払時)借方:前渡金 500,000円 貸方:普通預金 500,000円
(検収時)借方:研究開発費 500,000円 貸方:前渡金 500,000円
・貸出目的で試作品を50万円で製造し、外部に貸し出した。
(支出時)借方:建設仮勘定 500,000円 貸方:普通預金 500,000円
(完成時)借方:機械装置 500,000円 貸方:建設仮勘定 500,000円
ヒント:製造原価の集計は「メモタグ」に「試作機No1」など設定すると管理が楽
・研究用機械を50万円で購入した。※税務基準で処理した場合
借方:機械装置 500,000円 貸方:普通預金 500,000円
まとめ
会計上は「原則すべて費用処理」が基本ですが、税務上は研究開発の段階や成果物の性質によって「販売費及び一般管理費」「製造原価」「資産計上」など処理が分かれます。
支出の内容を明確にして、ただしく区分して処理しましょう。
試してみよう
まずは「研究開発費」の定義と対象範囲を理解し、自社活動が該当するかを確認しましょう
freeeでの仕訳ルールを社内マニュアルに取り入れ、適切に処理しよう
税額控除制度の適用条件をチェックし、自社で適用可能かどうか確認しよう