中小企業向け賃上げ促進税制のポイントと実務対応(令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度)
- 智史 長谷川
- 8月27日
- 読了時間: 3分
「賃上げをしたいけれど、資金繰りや利益の圧迫が心配…」
多くの中小企業経営者が抱えるこの悩みに対し、国は税制優遇策で後押しをしています。
それが「中小企業向け賃上げ促進税制」です。
令和6年度の改正により、控除率の大幅拡充や未控除額の繰越し制度が整備され、活用メリットが一層高まりました。
本記事では制度の要点を整理し、実務にどう活かせるかを解説します。
(参考)
記事要約
賃上げ促進税制は、給与等支給額の増加に応じて最大45%の税額控除を受けられる仕組み。
教育訓練費増加や「くるみん・えるぼし認定」取得などで控除率が上乗せされる。
中小企業は、使い切れなかった控除額を最長5年間繰り越し可能。赤字でも翌期以降の黒字で利用できる。
制度概要と改正によるメリット
中小企業(資本金1億円以下の法人や従業員1,000人以下の個人事業主など)が対象で、前年度比1.5%以上の賃上げを行った場合に税額控除が認められます。
控除率の仕組みとしては、
前年度比+1.5% → 控除率15%
+2.5%以上の賃上げ → 控除率30%(上乗せ①)
教育訓練費の増加要件を満たす → +10%(上乗せ②)
「くるみん」や「えるぼし」認定取得 → +5%(上乗せ③)となり、最大で 控除率45% に到達します。
控除の上限は法人税額の20%までですが、使い切れなかった控除額は5年間繰越し可能です。
実務上のメリットは大きく、まず赤字企業でも将来に活かせる点です。
従来は賃上げをしても赤字で税額控除を使えないケースが問題でしたが、改正後は翌年度以降の黒字に繰り越せるため、投資的に賃上げへ踏み切る判断がしやすくなります。
また教育訓練費の要件を活用することも有効です。研修委託費や外部講座受講費など、教育訓練投資を拡充すると控除率が大きく上乗せされます。人材育成と税制優遇を両立できるのが魅力です。
さらに「くるみん」「えるぼし」などの認定制度と連動した上乗せもポイントです。
ただし、認定の取得時期に注意が必要で、年度中の取得か年度末時点での保持かによって適用判定が異なります。
実際の活用シナリオを見てみましょう。
事例①:製造業A社
前年度比+2.5%の賃上げ
教育訓練費を前年より+10%増
えるぼし認定(2段階目)を取得→ 控除率は 15%+15%+10%+5%=45%。例えば給与増加額1,000万円なら、最大450万円の法人税控除が可能です。
事例②:IT企業B社(赤字)
前年度比+1.5%の賃上げ
当期赤字で控除使えず→ 翌期黒字時に繰越控除を適用し、実質的に減税効果を享受。
制度の活かし方
資金繰り負担を軽減:賃上げに伴う法人税負担を直接軽減。
人材確保の競争力強化:教育訓練や女性活躍支援を組み合わせて従業員満足度を高める。
経営計画に組み込む:決算前に「賃上げ幅」と「教育訓練投資」をシミュレーションし、最大限の控除率を目指す。
まとめ
中小企業向け賃上げ促進税制は、単なる減税措置にとどまらず、人材育成・女性活躍・働き方改革と連動する制度です。
税制をうまく利用すれば、賃上げを経営の負担ではなく、成長の投資へと変えることができます。
今期の賃上げ計画を見直すタイミングで、ぜひ積極的に検討してください。
試してみよう
自社の「前年度比給与増加率」を計算してみる
教育訓練費の実績を確認し、来期の投資計画に反映
「くるみん」「えるぼし」認定取得の可能性を人事部門と検討