売上原価と販売費及び一般管理費、どちらに計上する?経理判断のポイントを徹底解説
- 智史 長谷川
- 4 日前
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経理処理の“迷いどころ”に明確な判断を
決算業務や日々の経理処理の中で、「これは売上原価?それとも販売費および一般管理費(販管費)?」と迷った経験はありませんか?
特に製造業やサービス業、スタートアップでは、会計処理の区分が経営判断にも直結するため、適切な仕訳が求められます。
この記事では、売上原価と販管費の違いや分類ルール、判断基準、実務でよくあるケースを交えながら、分かりやすく解説します。
記事要約
売上原価と販管費の基本的な違いは「販売との直接関係性」にある
迷いやすい支出項目の分類は、発生目的や業務の流れから判断する
正確な分類は財務分析や経営判断に直結する重要ポイント
売上原価と販管費の違いとは?
売上原価とは?
売上原価とは、「販売した商品や製品を作るために直接かかった費用」を意味します。
たとえば以下のような費用が該当します:
商品仕入原価(商社・小売業)
材料費、労務費、製造経費(製造業)
外注加工費や工場の光熱費も対象になることが多い
ポイント:販売に“直接”結びつく費用
販売費及び一般管理費(販管費)とは?
販管費は、商品やサービスの販売活動や、企業の運営全般にかかる間接費用です。
主に以下のような費目が含まれます:
広告宣伝費、営業交通費
管理部門の人件費(総務・経理など)
事務所の家賃や水道光熱費
会議費、通信費など
ポイント:販売活動や組織運営に“間接的に”必要な費用
実務で迷いやすいケースの分類ガイド
費用項目 | 原則的な分類 | 判断のポイント |
製造スタッフの人件費 | 売上原価 | 製品の直接製造に関わっている |
営業スタッフの人件費 | 販管費 | 販売活動に関わっているため |
工場の電気代 | 売上原価 | 生産活動に不可欠なため |
本社の電気代 | 販管費 | 管理部門の運営費用 |
商品パッケージデザイン費 | 販管費 | ブランド戦略など販売促進の一環 |
試作品の外注加工費 | 売上原価(場合によっては開発費) | 将来販売を前提にした原価の一部とみなすケースあり |
顧客への送料 | 販管費 | 原則は販売の一環とみなす |
判断基準と注意点
判断基準1:費用の発生目的
同じ支出でも「目的」が異なれば、計上区分が変わります。
例:
自社で使用する広告物:販管費(広告宣伝費)
商品に付属する説明書の印刷:売上原価
判断基準2:業種・業態による違い
製造業:工場関連費用の多くが売上原価に該当
小売業:商品の仕入れが売上原価、店舗の運営費は販管費
サービス業:人件費が多く、直接業務か間接業務かで区分が分かれる
判断基準3:会計方針と一貫性
企業が定めた会計方針に従い、毎期同じ基準で処理することが重要です。
税務調査でも、「継続的な処理」がされているかどうかが確認されます。
事例:クラウド開発企業A社のケース
A社は、受託開発と自社SaaSを提供するスタートアップ。開発スタッフの人件費をどちらに計上するかが議論となりました。
受託開発スタッフ → 売上原価:顧客に納品するための直接費用
自社サービスの新機能開発 → 販管費あるいは資産計上(開発費)
ここで重要なのが、「誰のために」「どの機能を」「将来どう収益化するか」の視点です。費用が「直接」収益と連動するなら売上原価、そうでなければ販管費か資産計上の可能性があります。
よくある質問(Q&A)
Q1:人件費はすべて販管費になるのですか?
→ いいえ。製造スタッフや受託作業に従事するスタッフなど、直接業務に従事している場合は売上原価となります。
Q2:販売前の商品広告費は原価に含まれますか?
→ いいえ。販売促進のための広告費は、原則として販管費(広告宣伝費)です。
Q3:配送費は原価ですか?
→ 販売価格に含めていれば売上原価に分類することも可。ただし、通常は販管費として処理することが多いです。
Q4:展示会の出展費用は売上原価?販管費?
→ 販管費(広告宣伝費または販売促進費)に該当します。展示会は販売活動や新規顧客開拓の一環とみなされるため、たとえ製品サンプルを提供したとしても、その目的が「販売促進」であれば販管費扱いが原則です。
Q5:社内で使用する試作用部品の購入費は?
→ 基本的には販管費(開発費など)です。販売用製品ではなく、研究・開発段階での内部試作であれば、直接的な売上原価とは言えません。
ただし、明確に将来の売上に結びつくと判断される場合は、資産計上の対象(繰延資産や無形資産)となることもあります。
まとめ
売上原価と販管費の正確な区分は、財務分析や経営戦略の精度を高める上でも重要なポイントです。
分類の誤りは、利益の把握を誤らせたり、税務リスクにもつながりかねません。
ポイントは以下の3つ:
支出の目的と業務への直接性を確認する
業種や会計方針に応じた処理の一貫性を保つ
判断に迷う場合は、顧問税理士や会計士に相談する
試してみよう
月次での費用内訳を見直して、売上原価と販管費のバランスを確認してみましょう。
曖昧な費用項目については、記録メモや発生目的を明記する運用を始めましょう。
年次決算前に、経理処理の方針を社内で共有し、処理の一貫性を高めましょう。