スタートアップの企業価値はどう決める?バリュエーションの基本と交渉のコツ
- 智史 長谷川
- 13 分前
- 読了時間: 5分
「いくらで出資を受けるか」は、スタートアップ経営者にとって避けて通れないテーマです。
資金調達のたびに話題となる「バリュエーション(企業価値評価)」は、単なる数字以上に、投資家との信頼関係、将来の成長可能性、そして経営の自由度にも大きく関わります。
この記事では、スタートアップ特有のバリュエーションの決め方と、交渉で押さえるべきポイントをわかりやすく解説します。
記事の要約
バリュエーションは「交渉戦略」の一環であり、単なる計算ではない
スタートアップの評価には3つの基本アプローチがある
成長戦略・実績・ロジックの3点セットが交渉成功のカギ
バリュエーションとは何か?
スタートアップにおける「企業価値(バリュエーション)」とは、将来的な収益性や成長の期待をもとに、いま現在の価値を見積もるものです。
特に、売上や利益がまだ十分でない段階では、定量的な裏付けと将来ビジョンをどう見せるかが評価に直結します。
主なバリュエーション手法
1. インカム・アプローチ(将来利益ベース)
代表例:DCF法(ディスカウントキャッシュフロー)
将来のキャッシュフロー予測を「現在価値」に割り引いて評価します。
スタートアップの場合、リスクが高いため「VCレート」という高い割引率(予測キャッシュ・フローの大幅な変動リスク、倒産リスク、非流動性リスク等を全て内包)が使われるケースが最も一般的です。
ステージ | 研究開発・ビジネスの状況 | 事業計画の状況 | 割引率(目安) |
シード期 | 研究開発・プロトタイプ施策 | 売上はほぼない | 50〜70% |
アーリー期 | プロトタイプ制作から商業化 | 売上はあるがまだ黒字化未達 | 40〜60% |
レイター期 | ビジネスモデルの確立 | 売上急拡大・黒字化達成 | 30〜50% |
IPO前 | 将来直近でIPOの予定 | 20%~35% |
(出典:「経営研究調査会研究報告第70号」を一部加工)
→ 収益化のシナリオが明確な場合に有効です。
2. マーケット・アプローチ(相場比較ベース)
同業種・同フェーズの企業の資金調達事例やM&A事例と比較し、売上高倍率(PSR)や利益倍率(EBITDA倍率)を適用します。
スタートアップは赤字や売上ゼロのケースも多いため、売上高倍率(PSR)などが使われることが多いです。また、売上が計上されていないシードやアーリー期では売上高倍率(PSR)も困難になります。
→ 市場の相場感をもとに「妥当性」を伝えるのに適しています。
3. コストアプローチ(資産ベース)
企業の「資産 - 負債」による純資産を評価。設備や在庫、現預金などが評価対象となります。(簿価純資産法や時価純資産法など)
スタートアップの成長性や将来性を十分に反映できないため、参考値として使われることが多いです。
→ 成長性が反映されないため、一般的にはスタートアップの評価に適合しません。
バリュエーションを巡る交渉の実務
バリュエーションは「数字のロジック」だけでなく、「交渉のストーリー」です。以下の5つの視点で整理しましょう。
① 実績やKPIで裏付けを取る
売上成長率
ARR(年間経常収益)
アクティブユーザー数
継続率(リテンション)
→ 数字で語れると説得力が段違いに高まります。
② 類似企業のデータを準備する
同じ業界・同じ成長フェーズの企業比較
直近の調達情報(倍率や評価額)
→ 相手の相場感と自社のギャップを埋めるために不可欠です。
③ 「契約全体」で判断する
バリュエーションは高ければ良いとは限りません。
交渉では以下の点にも注目しましょう:
希薄化割合
投資家の経営関与
将来の資金調達との整合性
→ 長期視点での「経営の自由度」も見極めましょう。
④ 論理とストーリーを両立させる
評価額を伝える際は、「なぜその数字になるのか?」を論理的に説明できる準備が大切です。
ストーリー例:
市場がどう伸びるか
その中で自社がどのようにシェアを獲得するか
どのような根拠(過去実績、強み)で達成できるか
→ Excelの数字だけでは語れない「事業の魅力」を伝えましょう。
⑤ 「落とし所」と「撤退ライン」を明確に
交渉に柔軟性は必要ですが、譲れない部分も必要です。
期待する株式比率
経営方針に対する独立性
交渉が決裂した場合の次の選択肢
→ 準備しておけば、交渉でブレずに済みます。
バリュエーションを高める5つの戦略
戦略 | 解説 |
実績の積み上げ | 小さなKPIでも積み上げれば評価の根拠に |
市場シェア拡大 | 実際のユーザー数・導入企業数などで証明 |
チームの強化 | 経営陣・CTOなどの信頼性が評価を押し上げる |
差別化技術の明示 | 技術、プロセス、サービス構造で差をつける |
明確なミッションの浸透 | 投資家の共感・信頼を呼ぶ軸になる |
注意点:過大評価・過小評価のリスク
評価が高すぎると…
次回の調達で「ダウンラウンド」になる可能性
既存株主の信頼低下や希薄化懸念
評価が低すぎると…
株式を多く手放すことになり、経営の自由が減る
チームのインセンティブが希薄になる
→ 「ちょうどよい水準」を目指すことが大切です。
まとめ
バリュエーションとは、未来の期待を現在の価値に変換するために重要なプロセスです。
投資家に対して「なぜこの価値なのか」を、実績とストーリーで語る準備ができていれば、交渉でも一歩リードできます。
評価額はゴールではなく、より良い成長戦略のスタート地点。焦らず、論理的かつ柔軟に臨みましょう。
試してみよう
自社の主要KPIをピックアップし、時系列で整理してみる
類似企業の資金調達倍率を調査してベンチマークを作る
バリュエーションのロジックをプレゼン資料に落とし込んでみる